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そら豆畑に風が吹く

2016.05.24 (Tue)

久しぶりのデパートの紳士服売り場、平日のためかゆったりとしていた。
食品売り場には研究のためとか、おいしさに触れることを理由に出掛けるが、このごろはご無沙汰だ。

父の日が近づき、プレゼント商戦たけなわの中、見上げたところにマネキンが作務衣を着ていた。
麻混の綿で涼しげな色合い。
生前の父の姿が重なった。
父の日のプレゼントが不要となった今、喜ばせようとあれこれ考えた楽しみや、渡した時の照れた笑顔の父を思い出して懐かしい。

半年で父、母と続いて逝った。
介護度5だった母と違い、父は倒れる一カ月前まで車を運転して母のいるグループホームへ通っていた。
そろそろ免許を返還しなければと言いながらも車の便利さを考えて悩んでいた。

父は珍しい花々や果実、野菜を育苗から取り組んで育てていたので私の料理教室も大きな恩恵を受けた。
これが来なくなったことも残念だが、それより心の交わる相手を亡くした事が大きく、心が空になってしまった。
91歳で生涯を終え、今年三回忌を済ませた。
失ってしみじみ味わう古里の味でもある。

野菜売り場にも並んでいた旬の味「そら豆」。
父のおいしい野菜の一つだった。
その名は空に向かって直立するように伸びる姿に由来すると父から教えられたが、食品図典にも載っていた。
インド原産で中国を経て渡来したため、唐豆とも呼ばれる。
完熟した豆を利用する種類と若豆を利用する野菜種がある。

一寸そら豆の「お多福豆」が野菜種で九州一円で栽培される。
昔の美人の代表格であるぽっちゃり系の顔のように”お歯黒”が色づけば完熟と見当がつく。
煮豆、ゆで豆、サラダ、天ぷら、スープ、ゼリーなどあらゆる料理に使われる豆だが、知り合いのイタリア人シェフは、そら豆でおいしいガスパチョを作ってくれた。

地物は6月中旬までおいしくいただけるだろう。
成熟するほど、たんぱく質、ビタミン群、ミネラルの含有量が多くなり、含まれるレシチンは動脈硬化の予防に有効という。
若豆にはビタミンCが多く、抗酸化作用で疲労回復や美肌作りに役立つという。
すぐに使わない場合はゆでて冷凍保存するといい。

新鮮なそら豆をポキッと割ったとき、ふわふわのベッドに並んで寝る赤ん坊のように若豆が、産毛のおくるみに守られている。
父とそら豆畑の収穫時、下を向いた完熟豆を取りながらさやさやと風が通る。
青い匂いが広がり、父の背中が見えると安心したものである。


連載「オバさんは元気」2015年6月12日  掲載分


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12:46  |  毎日新聞掲載
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