FC2ブログ
07月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫09月

スポンサーサイト

--.--.-- (--)

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--:--  |  スポンサー広告

ネギの匂い

2017.05.29 (Mon)

 それはスーパーを出てすぐの信号待ちでふと感じた。買ったネギ苗の匂いが風に乗り、私の鼻から全身に通り抜けた気がしてよみがえってきたのだ。30代半ば、風邪をこじらせ肺炎になり即入院となった。病院は実家の近くで安心していると案の定、母が駆けつけてくれた。だが畑から直行の仕事着姿。麦わら帽子にもんぺでオロオロと私をのぞき見る。若い私は恥ずかしくて、深く毛布をかぶったら「大丈夫ね」と強くめくる母。泥の残った母の手はネギの匂いがした。「母さん、ごめん」。今なら分かる母心。母が逝き、ねぎを切る度にわびている。

(2017年5月15日 毎日新聞 はがき随筆より)
スポンサーサイト
12:56  |  毎日新聞掲載

父と桜花

2017.05.01 (Mon)

「待ちわびる」という言葉が桜ほど似合う花はないだろう。それなのにパッと咲いてパッと散る。潔さの美も人々を魅了する。亡き父は、桜は農事農耕の神が宿る木だと大切にしていた。つぼみが膨らむと田をすき、満開の頃は油菜刈り、散れば高菜の収穫期だ。村人は神への豊穣と感謝の心を込めて花咲く下、献杯の会を催した。今の花見の起源だと言った。先人からの桜文化を語る父の目は、現代人の花見マナーの悪さを映すテレビニュースを見据えていた。今年も庭の桜花が舞う。遠く春耕のトラクターの音を聞きながら手を広げ、父の息吹を感じよう。

(2017.4/3 はがき随筆より)
09:53  |  毎日新聞掲載

そら豆畑に風が吹く

2016.05.24 (Tue)

久しぶりのデパートの紳士服売り場、平日のためかゆったりとしていた。
食品売り場には研究のためとか、おいしさに触れることを理由に出掛けるが、このごろはご無沙汰だ。

父の日が近づき、プレゼント商戦たけなわの中、見上げたところにマネキンが作務衣を着ていた。
麻混の綿で涼しげな色合い。
生前の父の姿が重なった。
父の日のプレゼントが不要となった今、喜ばせようとあれこれ考えた楽しみや、渡した時の照れた笑顔の父を思い出して懐かしい。

半年で父、母と続いて逝った。
介護度5だった母と違い、父は倒れる一カ月前まで車を運転して母のいるグループホームへ通っていた。
そろそろ免許を返還しなければと言いながらも車の便利さを考えて悩んでいた。

父は珍しい花々や果実、野菜を育苗から取り組んで育てていたので私の料理教室も大きな恩恵を受けた。
これが来なくなったことも残念だが、それより心の交わる相手を亡くした事が大きく、心が空になってしまった。
91歳で生涯を終え、今年三回忌を済ませた。
失ってしみじみ味わう古里の味でもある。

野菜売り場にも並んでいた旬の味「そら豆」。
父のおいしい野菜の一つだった。
その名は空に向かって直立するように伸びる姿に由来すると父から教えられたが、食品図典にも載っていた。
インド原産で中国を経て渡来したため、唐豆とも呼ばれる。
完熟した豆を利用する種類と若豆を利用する野菜種がある。

一寸そら豆の「お多福豆」が野菜種で九州一円で栽培される。
昔の美人の代表格であるぽっちゃり系の顔のように”お歯黒”が色づけば完熟と見当がつく。
煮豆、ゆで豆、サラダ、天ぷら、スープ、ゼリーなどあらゆる料理に使われる豆だが、知り合いのイタリア人シェフは、そら豆でおいしいガスパチョを作ってくれた。

地物は6月中旬までおいしくいただけるだろう。
成熟するほど、たんぱく質、ビタミン群、ミネラルの含有量が多くなり、含まれるレシチンは動脈硬化の予防に有効という。
若豆にはビタミンCが多く、抗酸化作用で疲労回復や美肌作りに役立つという。
すぐに使わない場合はゆでて冷凍保存するといい。

新鮮なそら豆をポキッと割ったとき、ふわふわのベッドに並んで寝る赤ん坊のように若豆が、産毛のおくるみに守られている。
父とそら豆畑の収穫時、下を向いた完熟豆を取りながらさやさやと風が通る。
青い匂いが広がり、父の背中が見えると安心したものである。


連載「オバさんは元気」2015年6月12日  掲載分


12:46  |  毎日新聞掲載

バナナ食べる魚

2016.05.03 (Tue)

去年食の旅バンコクでの事。

ある寺院で白い民族衣装の女性に目を奪われた。
古い机の上にバナナの輪切りの皿を並べて売っている
。細長い竹ぐしが添えられて、すぐに食べられそうだ。
本場の味に魅せられる私に、「これは魚用です」と、言う。
竹ぐしの先にバナナを刺して沈めれば、魚が食べるそうだ。
指さす先に大きな池が広がっている。

バナナを食べる魚?食材や観賞用の魚を脳裏に巡らせながら、言われた通りにやってみた。
濃い土色の水は尚更期待を増す。すぐに強い力が引っぱった。
私も負けずに引いてみると何と「なまず」!!驚いて残りを投げてしまった。
すると寄って来る、来る。珍しい型、色。

そう言えば東南アジアは、なまずの種類豊富で、神の使いとしてもうやまわれていると聞いた事を思い出した。
だがバナナを食べるとは-。
身はバナナの香りがするのかしらと罰当たりな疑問と、知り合いの誰かに似ているような気が、今も残っている。

平成13年1月 毎日新聞掲載  
13:41  |  毎日新聞掲載

  桜花(さくらばな)舞うなかへ

2016.04.07 (Thu)

愛犬ハル、ゴールデンレトリバー。メス14歳の最期は、大きく息を吸った後、戻らなかった。
一瞬、両親を送った時と同じ空気の淀(よど)みを感じて抱きしめた。
命の重みは、人も動物も同じであることを実感した終息だ。

14年前の春、生後3カ月で知り合いからダンボールで譲り受けた日、太い足と垂れ目はすぐに親しめた。
名はハル、庭の桜の下で初めて赤いリードを付け、初心者マークの犬との生活がスタートした。
夫とのペアは良く歩いた。
季節の移ろいを楽しみ、沢山の人と触れ合えた。

満開の桜花舞うなか、召されたハル、形見は皆んなの笑顔だった。

IMG_00041.jpg

2016(H28)年4月1日(金) 晴れ                 
18時10分 ハル永眠 史桜満開
4月5日(火) 毎日新聞出稿
大場 ほずみ                                          IMG_00042.jpg




12:24  |  毎日新聞掲載

2015年毎日はがき随筆文学賞「匂いの記憶」

2015.09.03 (Thu)

母の夢を見た。

夏のあさぎ色のワンピース姿は若く、私と妹を両脇にして笑っている。
昼寝の起き抜け顔に「ゴザの跡が付いている」と妹にからかわれて気弱く、母に駆け寄り顔を埋めた。
ワンピース越しの柔らかな息遣いと共に、ふわっといい匂いでなでられた感覚。
幼心は不思議な魔法にかかったように安らいだ。
母の香りは化粧の匂い。
常に子供の頃はそばにあり、落ち着けた気がする。

母は3年前、老いて力尽きた。
形見の一つの鏡台は喪失感で触れずにいた。
が、やっと最近開けてみると粉おしろいがそのままに。
一瞬にして、あの夏がよみがえった。
18:04  |  毎日新聞掲載

ヤブツバキ

2014.01.25 (Sat)

ヤブツバキ

 年の瀬の寒い日に「もも」が急死した。
形見の品を残すのはつらかったが、赤色の首輪だけいつも座っていた座布団の上に置き、一日泣き暮れてしまった。
 きっと人は、たかが猫だと笑うだろう。しかし前日まで元気だったので、突然の別れにとても戸惑った。
 悲愴な面持ちの私に、弟は寿命だとやさしく諭してくれた。決して猫の13歳は短命ではないとも。
 猫の平均寿命は明確なものではないそうだが、「もも」の年齢を人間に換算すると、1歳ですでに18歳。
それ以後は1年を4歳と換算するので、18+12×4で66歳となる。
私と同い年だと知った。
いつの間にか追いつかれていたのだった。
 病気だったのなら、なぜ早く気づいてあげられなかったのか。
硬く冷たい棒きれのようになった「もも」を抱きしめ、心からわびた。
 「もも」は13年前の秋、弟の軽トラックのエンジンルームに迷い込み鳴いていた。
満月の月明かりの中、片手ほどしかない体を震わせ、必死で母親を呼んでいた。
猫が大嫌いだったはずの夫は、本を買って離乳食から奮闘し、私は始めて猫の顔が1匹ずつ違うことを知った。
息子の独立後のわが家に笑いとやさしい空気が流れ、育てたつもりが癒されていたのだ。
 庭のヤブツバキの下に「もも」は眠る。
私の「ありがとう」を語るように、赤い花はぽつぽつと咲き、やがて小さな墓を包み込めばいい。

2014年1月12日(日)毎日新聞掲載「女の気持ち」
11:12  |  毎日新聞掲載
 | HOME | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。